MLBの夏の恒例行事、フラッグディールトレード。今年は制度改正があり、昨年までは可能だった8月以降にウェイバーをクリアした選手をトレードするという手法がとれなくなったことから、例年にも増して7月末の期限を前に盛んなトレードが行われました。MLB全体で見ると、アストロズがあのZack GreinkeをDバックスから獲得したことが最大の動きだったと思いますが、ナショナルズも3人のブルペン投手を補強しました。
先に評価というか感想を述べてしまうと、「ギャンブルではあるがこれでよかったんじゃないかな」という感じです。
ギャンブルになるというのは、先発投手を補強しなかったことと、まさかのあの投手を獲得したこと。あの投手については後述するとして、先発投手についてはMax Scherzerの復活に全てを賭けた、ということになると思います。Scherzerが復活できなければ、もうほぼ諦めるということでしょう。背中というシーズン中の治療が難しそうな部位の呼称を抱えてIL入りしている現状は決して楽観視できるものではありませんが、大黒柱Scherzerの復活なしにはどうせポストシーズンを勝ち進むことはできないでしょうから、中途半端に4番手や5番手の投手を補強しても大きな意味はないでしょう。これでいいと思います。当然、Joe RossとErick Feddeの2人にかかる期待は大きくなります。
ブルペンの補強は必須でしたから、3人も一度にアップグレードしたことは評価していいと思います。ライバルのブレーブスがタイガースのクローザーだったShane Greeneなどを獲得したことと比較するとペーパー上見劣りすることは確かですが、限られたリソースの中でRizzo GMはよくやったと思います。
贅沢税の基準を超えることについて、オーナーの財布が痛むことはファンが気にすることではありませんが、ドラフト指名権や、海外FA選手との契約金への悪影響は
長期的な戦略にとって無視できるものではありません。今年のドラフトでは、Bryce HarperをFAで失ったことの補償があんなに低いものでしかなかったことに衝撃を受けましたし、今オフもAnthony RendonがFAで退団する可能性があることを思うと(もちろん再契約を願っていますが)、贅沢税の基準以下に収めることは重要なポイントでした。中南米出身の選手の補強もより積極化できるはず。目の前のニーズと長期的な戦略とのバランスを考えるとこの辺りでよかったと思います。
ということで、いよいよトレード、それに伴うロースターの動きに入っていきます。
○ マリナーズからRoenis EliasとHunter Stricklandの2人を獲得し、Taylor Guilbeau, Aaron Fletcher, Elvis Alvaradoの3人を放出
まず、DFAした3人のブルペン投手から。それぞれにお疲れさま、という感じです。(8/2 Tony Sippを追加)
● Justin Miller
32歳の右腕。昨シーズン途中にマイナー契約から昇格してきたときにはあまり期待していませんでしたが、素晴らしいピッチングを続けて戦力として定着。今季も、開幕から崩壊を続けたブルペンにあって数少ない頼りになる存在でしたが、4月に背中を痛めてIL入り。一度は復帰したものの5月に今度は右肩痛で再びIL入り。復帰に向けて、という情報は聞こえないままに今回のDFAとなりました。かなり状況は悪いのでしょうか。
● Javy Guerra
33歳の右腕。5月にブルージェイズからDFAされたところをウェイバーで獲得。ビハインドでの登板が中心でしたが、23試合で防御率4.80。ベンチの信頼を得ることはないままでしたが、数字ほど悪くない印象でした。
● Michael Blazek
30歳の右腕。7月22日に約2年ぶりのメジャー登板。大量リードと負け試合で4試合に登板し、うち2試合で計4失点。まあこんなものでしょう。
ロースター枠を空けるために、8月2日になってTony SippもDFAしました。オフを挟み、アリゾナまでチームと移動してからというのはちょっと残酷な気もしますが、獲得した3投手がそろって間に合う保証がなかったための措置だったようです。
36歳の大ベテランのブルペン左腕。この春、スプリングトレーニングが始まってからメジャー契約し、開幕以降、主にいわゆるLOOGYとして33試合に登板して、防御率4.71。5、6月は好投していましたが、7月に入って打たれる試合が多く、特に左打者打ち取れないシーンが目立っていました。
続いて、トレードで放出した若手の4人です。
● Kyle Johnston
23歳の先発右腕。2017年ドラフト6巡目。まずまず順調にステップアップし、今季はPotomac(A+)で20試合に先発、計105イニングで100奪三振、4.03/1.23の成績を残している。トレード直前のタイミングでのMLB.comのPipelineでは組織内27位という評価だった。
● Taylor Guilbeau
26歳のブルペン左腕。MLB Pipelineでは15位と今回トレードで放出した4人では最も高い評価を受けていた選手。年齢も最も高い。2015年どらふと10巡目。2018年にブルペンに転向してから成績が向上。昨年秋のアリゾナ秋季リーグでも評価を上げた。今季はHarrisburg(AA)で開幕し、27試合で2.31/1.06という好成績を残し、AAAに昇格。オフにはルール5ドラフトの対象にもなることからこの秋にもメジャーデビューの可能性も。
● Aaron Fletcher
23歳のブルペン左腕。昨年、2018年のドラフト14巡目。今季はHagerstown(A)で開幕し、6月にPotomac(A+)に昇格。2チームで計27試合、54イニングを投げ、防御率1.50、60奪三振という内容。7月にHarrisburgに上がってからは打たれていたが、それでも組織内21位と評価を上げていた。
● Elvis Alvarado
ドミニカ出身の20歳の右腕。元々は野手としてナショナルズと契約したが、2018年に投手に転向。今のところGCLでも結果を出せていなかった。
さて、いよいよ、トレードで獲得した3人のブルペン投手を紹介します。
● Daniel Hudson
32歳の右腕。元々は2008年ドラフト5巡目でホワイトソックスに入団。トレードを経てDバックスで先発投手として活躍し、2011年には33試合先発で16勝を記録。チームの地区優勝に貢献した。この年の印象はありますね。しかし翌2012年からは肘の故障に苦しみ、2度のTJ手術を受けることに。2014年の秋にようやく復帰し、以降はブルペン投手としてDバックス、パイレーツ、そして昨季はドジャーズで投げた。
今季はスプリングトレーニングの終盤にブルージェイズと1年契約を結び、ここまで45試合に登板して3.00/1.27、セーブも2つ記録と、ブルペン投手になったからでは自己ベストと言っていい成績。実績に照らすと安心はできませんが、今季はずっと調子がいいので、とりあえず信じたいと思います。シーズン終了後はFAとなる、いわゆるレンタル投手です。
● Roenis Elias
30歳の左腕。キューバ出身。2010年に亡命し、2011年にマリナーズとマイナー契約を結んでアメリカでのキャリアをスタート。当初は先発として育成され、2014年にルーキーとして10勝を上げたが、翌年は成績を落とし、レッドソックスにトレードされた後の2016年、2017年はまったく振るわず、ほぼマイナーで過ごした。昨年春に金銭トレードでマリナーズに出戻り、ブルペンに転向して適性を見せた。
今季は開幕から終盤のマウンドを任されることが多く、44試合に先発して14セーブ。防御率は4.40だが、セーブ失敗が2つしかないというのは好印象。今季が年俸調停1年目なので、あと2年、つまり2021年まで保有期間があります。ただし、オプションは切れている模様。
● Hunter Strickland
さあ来ました。問題のStricklandです。年齢的にも、実績から言っても、3人の中で最も期待してもいい選手ですが、応援しろと言われてもなかなか難しいというのが、正直な気持ちです。
とりあえず経歴。30歳の右腕。2007年ドラフト18巡目でレッドソックスに高卒入団。2013年にジャイアンツに移籍し、翌年9月にメジャーデビュー。以降昨年まで5シーズンに渡ってジャイアンツのブルペン投手として、通算253試合に登板し、2.91/1.19、19セーブ、60ホールドを記録。見ての通り、文句のつけようのない実績です。年齢的にも最盛期を迎えているはずです。
しかし、ナショナルズファンには忘れられない悪名高い事件を引き起こした選手としての印象がどうしても拭えません。
時は2017年5月29日、ナショナルズが2-0とリードして迎えた8回表のことでした。2死走者なしで打席に入ったBryce Harperへの初球、Stricklandは98マイルの全力投球をHarperの身体を狙って投げ、ぶつけたのです。故意死球です。普通は、狙ってても狙ってないと言うものですが、Stricklandは認めましたのです。理由付きで。しかし、その理由を聞いてファンはおろか、ジャイアンツの首脳陣でさえも首を傾げました。曰く、2014年のNLDS、第1戦と第4戦で打たれたホームランに対する報復だとのこと。3年も前の話であり、しかも、その2試合ともジャイアンツが勝利しており、むろんシリーズもジャイアンツが勝って、そのままワールドシリーズを制覇したにもかかわらず、です。3年も経って故意死球?頭おかしいんじゃないの?というのが正直な感想です。今でもそう思います。
ただ、私がこの事件のことを今でも許せないのは、もう1つ別の理由があります。それは、この事件が、直接、Michael Morseの引退につながったからです。ぶつけられたHarperはマウンドに向かい、それを挑発するかのように迎え撃ったStricklandとの殴り合いから両軍ベンチから選手が飛び出す乱闘騒ぎが始まりました。この騒ぎの中、むしろ止めに入ったMorseに不運が訪れます。味方選手に突き飛ばされ頭を強打して脳震盪をおこしてしまい、翌日からDL入りを余儀なくされ、結局そのまま引退となりました。ナショナルズファンに愛されたMichael Morseの現役最後の試合が、まさにこの事件の試合となってしまったのです。あの事故がなくてもキャリアも終盤になっていたMorseがユニフォームを脱ぐ日は遠くなかったと思いますが、あんな形終わらせられるなんて。Stricklandの名前を見ると未だに嫌な気持ちにさせられ、さっさと引退すればいいのにと思ってきました。それがまさか、ナショナルズで投げることになるなんて。なお、Michael Morseは、今シーズンから、ナショナルズのテレビ中継の前後に放送される番組のコメンテーターを勤めています。
昨シーズンもジャイアンツで投げていましたが、6月の試合でセーブ失敗で降板した後ロッカーを殴りつけ、自らの右拳を骨折という暴挙に出たこともあり、オフにノンテンダーされ、FAに。マリナーズと1年130万ドルの契約を結びましたが、開幕から3試合に登板したところで右の背筋を痛めてIL入り。ようやく先週復帰してきたばかり。
とまあいろいろ書いてきましたが、やはりStricklandを許す気にはなりません。彼だけは応援はしません。
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